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【筑波大学・新潟医療福祉大学】ドルフィンキックではスピードが上がるほど水流をうまく利用している

2024年3月8日
報道関係者各位
国立大学法人筑波大学
学校法人新潟総合学園新潟医療福祉大学


ドルフィンキックではスピードが上がるほど水流をうまく利用している


流水プールで水中ドルフィンキックを行った際のスイマーの周りの水の流れを、粒子画像流速計測法により可視化し、推進メカニズムを検討しました。その結果、泳ぐ速さが上がるほど、生じる水流や渦をうまく利用していることが分かりました。
水泳では水という流体に対して運動量を与え、その反作用によって推進力を得ています。従って、スイマーの動作に伴って生じる水の流れから、推進のメカニズムを理解することができます。しかしながら無色透明な水を、肉眼やカメラで観察することは非常に困難です。そこで、流れを可視化する流体力学分野の手法である粒子画像流速計測法を用いて、実験用回流水槽(流水プール)において、水中ドルフィンキック泳法で、泳ぐスピードを変化させた際に水の流れがどのように変化しているのかを調べました。
その結果、水中ドルフィンキックの下肢動作において、泳ぐスピードが上がるにつれて水の流れの速度が増大し、キック中により強い渦が生成され、推進力が増加する要因となっている可能性が示されました。また、蹴り下ろし動作から蹴り上げ動作に移行する局面で、蹴り下ろしで生成された流れを再利用する現象が観察され、この現象は泳ぐスピードが上がるにつれて顕著になりました。本研究は、キック泳中の泳ぐスピードを変化させた際の水の流れの変化を観察した初めての研究です。
本研究は指導者がキック泳を教える上での科学的根拠を提供することに加え、水泳研究で重要とされる水の流れに関する研究を加速させることが期待されます。

◎研究代表者 
・筑波大学体育系
角川 隆明 助教
・新潟医療福祉大学健康科学部健康スポーツ学科
下門 洋文 講師

◎研究の背景 
水泳の泳技術の一つに水中ドルフィンキックがあります。その名の通り、イルカのように脚を上下に動かして推進する技術で、競泳競技では、スタートやターンの後に推進力を得るために用いられることから、スイマーにとっての重要なトレーニング課題となっています。これまでの研究では、水中ドルフィンキックで泳ぐスピードを高めるためには、脚を速く動かすことが重要であるとされてきました(Ruiz-Navarro et al., J. Sports Sci., 2022)。しかしながら、脚を速く動かすことが泳ぐスピードを高める具体的なメカニズムは不明でした。
これを明らかにするためには、水の流れに着目する必要があります。水泳では水という流体に対して運動量を与え、その反作用によって推進力を得ています。従って、スイマーの運動によって生じる水の流れの変化が明らかになれば、脚を速く動かすことと泳ぐスピードを高めることの関係を解明できると考えられます。
そこで本研究グループでは、実験用回流水槽(流水プール)において、水中ドルフィンキックで泳ぐスピードを変化させた際の、スイマーの動きと水の流れを調べました。

◎研究内容と成果 
本研究では、実験用回流水槽 注1)にて流速(泳ぐスピード)を変化させながら、スイマーの動作と水の流れの変化を解析しました。動作分析には、ヒトの3次元動作の分析が可能なモーションキャプチャシステムを、水の流れの解析には、流体力学分野でよく使われる粒子画像流速計測法(Particle image velocimetry method, PIV法)注2)を用いました。
その結果、泳ぐスピードを上げると、脚を動かす速さが上昇したことに加えて、両足の動きが、蹴り下げ動作では互いに離れる方向に、蹴り上げ動作では互いに近づく方向に変化しました(図1)。このような動作の変化によって、キック中により強い渦が生成され、推進力が増加する要因となっている可能性が示されました。また、脚を蹴り下ろす動作から蹴り上げる動作に移行する局面で、蹴り下ろし動作の際にできた水の流れを再利用する現象が観察され(流れの再捕獲)、この現象は泳ぐスピードが上がるにつれて顕著になりました(図2)。流れの再捕獲は昆虫の飛翔や魚類の泳ぎでも観察されており、エネルギーを効率よく使い、推進力を増加させる働きがあると考えられています。
本研究により、水中ドルフィンキックでは、脚を動かす速さを上げることで泳ぐスピードが上がるメカニズムが分かりました。また、脚を動かす速さだけでなく、脚を動かす向きや、蹴り下ろし動作から蹴り上げ動作への切り返しを意識することの重要性も明らかになりました。これは水中ドルフィンキックを練習するスイマーにとって、貴重な情報になると考えられます。

◎今後の展開 
水の流れを可視化する技術を用いた水泳中の諸現象の解明は、スイマーが速く泳ごうとする際や泳技術を習得する際の科学的根拠を提供します。今後さらに、キック動作のみならず、ストローク動作やスカーリング動作の解析や、水泳中に生成される渦構造の解析を進め、科学的根拠に基づいた練習方法などを提案していきます。

◎参考図 

図1 泳ぐスピードと脚の動きの変化


図2 蹴り下げ動作から蹴り上げ動作に切り替わる局面での現象

◎用語解説 
注1)実験用回流水槽
一般的に流水プールと呼ばれる設備で、環状のプールの水をプロペラによって加速させることで、同じ位置に留まった状態で設定したスピードで泳ぐことができる。
注2)粒子画像流速計測法(Particle image velocimetry method, PIV法)
流体中に混入した粒子にレーザーを照射することで、流体の流れの速度と方向を求めることができる計測手法。

◎研究資金 
本研究は、科研費、次世代研究者挑戦的研究プログラム、筑波大学ヒューマン・ハイ・パフォーマンス先端研究センターの研究プロジェクトの一環として実施されました。

◎掲載論文 
【題 名】Impact of variations in swimming velocity on wake flow dynamics in human underwater undulatory swimming
(ヒトの水中うねり泳における泳者後方の水の流れに及ぼす泳速度の変化の影響)
【著者名】 Nakazono, Y., Shimojo, H., Sengoku, Y., Takagi, H., & Tsunokawa, T.
【掲載誌】 Journal of Biomechanics
【掲載日】 2024年2月24日
【DOI】 10.1016/j.jbiomech.2024.112020

◎問合わせ先 
【研究に関すること】
角川 隆明(つのかわ たかあき)
筑波大学体育系/ヒューマン・ハイ・パフォーマンス先端研究センター(ARIHHP) 助教
TEL: 029-853-2643
Email: tsunokawa.takaaki.ke@u.tsukuba.ac.jp
URL: https://www.arihhp.taiiku.tsukuba.ac.jp/member/#p-25

【取材・報道に関すること】
筑波大学広報局
TEL: 029-853-2040
E-mail: kohositu@un.tsukuba.ac.jp

新潟医療福祉大学
TEL: 025-257-4459
E-mail: kouhou@nuhw.ac.jp
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